記事:核持ち込み密約:藪中外務次官「日米間で交渉あった」 柔軟姿

外務省の藪中三十二事務次官は24日の記者会見で、日米密約に絡む米艦船の核持ち込みについて「昔は(日米で)解釈の違いについて、その時々の話はあった。かつていろんなやりとりがあった」と述べた。外務省は密約を否定する立場を堅持しているが、「密約を公開する」としている民主党が政権を獲得する可能性が高まっていることをうけ、核持ち込みをめぐり日米間で交渉があったことを認めることで柔軟姿勢を示したとみられる。

 日本政府の公式見解では米国との事前協議の対象になる「核持ち込み」は核搭載米艦船の寄港も含まれるが、日米密約では「寄港は含まれない」とする解釈で合意している。解釈を巡る当時の日米交渉を認めたのは、公式見解と異なる解釈があったことを認める意味があり、民主党政権に備え、密約を秘密合意ではなく、解釈の違いと主張する布石の可能性もある。【須藤孝】

毎日新聞 2009年8月25日 東京朝刊

核兵器を積んだ艦船などの日本立ち寄りは核の「持ち込み」に当たらないとの日米の密約について、外務省の薮中三十二事務次官は24日の記者会見で、持ち込みの定義をめぐり、「そのときどきの話はあったと承知している」と述べ、日米間で見解の相違があり、議論があったことを認めた。今後、密約をめぐる文書の有無を調査するかについても含みを持たせた。

 総選挙での政権交代をめざす民主党は、密約問題を追及する構え。鳩山代表は米国でも調査したうえで、半年から1年で結論を出す方針を打ち出している。また、鳩山氏は首相就任後、米側に「持ち込み禁止」の確約を改めて求めるとしている。これまで「密約はない」と完全否定してきた外務省が、民主党政権が現実味を帯びる中、姿勢を修正しつつあるとも言える。

 薮中氏は、日米間で事前協議が必要となる持ち込みに「立ち寄り」が含まれるかどうかなどについて、「かつていろいろなやりとりがあったということは、我々としても聞いている」とも述べた。ただ、「それが密約うんぬんという話ではない」として、密約はないとの基本的な立場は崩さなかった。

 米国の核兵器をめぐっては91年、ブッシュ大統領(当時)が艦船や潜水艦に積む戦術核兵器の撤去を打ち出し、92年には米政府が撤去完了を宣言。これ以降は、日本に立ち寄る米軍艦にも核兵器は搭載されていないことになる。薮中氏は「91年以降、通常艦船に載せないということを含め(持ち込みをめぐる議論が)今の問題としてあるわけではないと私は理解している」とも強調した。

 民主党が求める密約の調査に関し、薮中氏は「今この時点で特にそれを具体的に何か考えているわけではない」とした。外務省はこれまで密約について「存在しないということに尽きる」などとの立場を繰り返し表明。薮中氏は6月29日の会見でも「存在しないものについて改めて調査することは今考えていない」と述べていた。(鵜飼啓)

朝日新聞』2009年8月24日