GHQ機関が「北」の紙幣偽造 朝鮮戦争時に日本で計画

連合国軍総司令部(GHQ)傘下の工作機関が、朝鮮戦争(1950〜53年)中の51年、日本国内で北朝鮮紙幣の偽造作戦を進めていたことが19日、分かった。作戦にかかわった在日韓国人の男性が偽造紙幣の原版を保管していた。作戦は戦況の変化で数カ月後に中止となり、偽造紙幣は印刷されずに終わった。

 原版を保管していたのは、東京都在住の会社役員延祥(ヨンサン)氏(81)。GHQ直属の機関「キャノン機関」で幹部だった延禎(ヨンジョン)氏(2002年死去)の実弟で、兄とともに作戦にかかわった。

 原版は「北朝鮮中央銀行」が51年当時発行していた最高額面の100ウォン紙幣を偽造するためのもので、縦185ミリ、横240ミリの銅版。同行の刻印があり、朝鮮語で「本銀行券は銀行所有の金貴金属およびその他財産または北朝鮮人民委員会の保証書としてこれを保障する」と刻まれている。

 延祥氏や延禎氏の著書「キャノン機関からの証言」によると、作戦は「アイスボックス・オペレーション」と呼ばれ51年初め、GHQに命じられた。

 大阪で偽札作りの罪で公判中だった日本人の男性を連れ出し、東京都大田区内の1軒家に住まわせ、原版を作らせた。キャノン機関で活動する韓国人4人が男性を監視した。

 延禎氏は「キャノン機関からの証言」で、「某国の経済攪乱(かくらん)をおこなおうというプラン」と記し、作戦に触れているが、国名は明らかにしていなかった。

 朝鮮戦争で徹底した北進を主張していたマッカーサーGHQ最高司令官は、戦局拡大を恐れた米政府によって51年4月に解任。間もなく、作戦の中止命令が出たという。

 監視役の4人は男性が外出中に原版や工具を携えて撤収。その結果、原版は未完成に終わっている。

東京新聞』2009年8月20日 朝刊