記事:核密約 歴代首相ら黙認 外務省極秘メモ公開

岡田克也外相は9日、日米の密約に関する外務省調査結果と有識者委員会の検証報告書を公表した。併せて公開された機密文書から、政府が1968年に核兵器搭載の疑いのある米艦船の寄港・通過を黙認する立場を固め、その後の歴代首相や外相らも了承していたことが判明。寄港の可能性を知りながら、「事前協議がないので核搭載艦船の寄港はない」と虚偽の政府答弁を繰り返していた。非核三原則佐藤栄作首相の67年の表明直後から空洞化していたことになる。見つからなかった重要文書も多く、有識者委は破棄の可能性など経緯調査の必要を指摘した。
外務省『いわゆる「密約」問題に関する調査結果』

 調査対象となったのは、四つの密約。60年の日米安保条約改定時の核持ち込み密約は、核搭載艦船の寄港・通過は核「持ち込み」の際に必要な事前協議の対象外とするもので、米側が主張したが、日本政府は国会答弁などで存在を否定。こうした艦船の寄港・通過はない、との説明も繰り返してきた。

 ところが、今回の調査で、68年1月27日付の東郷文彦北米局長による極秘メモが外務省の執務室から見つかった。前日にジョンソン駐日米大使に持ち込みの米側解釈を伝えられたやりとりを詳述。「政治的、軍事的に動きのつかない問題」と位置づけ、日本としては「現在の立場を続けるの他なし」と言及。表向きは核搭載艦船の寄港を認めない姿勢を示しつつ、米側解釈に異を唱えず、寄港を黙認する方針が示されていた。

 この文書は歴代首相や外相への説明に用いられており、余白には当時の佐藤首相が読んだことや、田中角栄中曽根康弘竹下登の各氏らが首相在任時に説明を受けたことを示す記載がある。また、添付された89年のメモには、首相就任直後の海部俊樹氏に説明したと記されている。

核持ち込みをめぐり、密約の根拠とされ、政府が存在を否定していた安保条約改定時の「討議記録」の写しも見つかった。有識者委はこの文書だけでは寄港が持ち込みに当たるかはっきりせず、「密約の証拠とは言えない」とする一方、問題を意図的に回避し、「暗黙の合意による広義の密約があった」とした。

 有識者委は寄港・通過をめぐり政府が虚偽の答弁を続けてきたことについて、「うそを含む不正直な対応に終始した」と批判。岡田氏も9日の会見で、「これほどの長期間にわたり、国会、国民に対して明かされてこなかったことは極めて遺憾」と述べた。

 朝鮮半島有事の際に、在日米軍事前協議なしに出撃できるとの密約についても、根拠とされてきた非公開の議事録の写しが見つかり、有識者委は「密約」と位置づけた。

 沖縄返還後の核再持ち込み密約では、昨年末、佐藤元首相の遺族宅から佐藤氏とニクソン米大統領の署名入り合意議事録が見つかった。だが、有識者委は69年11月の両首脳の共同声明の内容を大きく超える秘密の合意はなかったなどとして、「密約とは言えない」とした。政府内で引き継ぎがなく、佐藤内閣後の拘束力もないとした。

 沖縄返還時の原状回復費の肩代わり密約では、有識者委は肩代わりはあったと認定。根拠とされた吉野文六アメリカ局長が米側と交わした文書は見つからなかったが、広義の密約にあたるとした。

 今回の調査では大量の文書が見つかり、公開された関連文書は5千ページを超える。半面、署名入りの「討議記録」やあるはずの会談記録などが見つからなかった。有識者委は核持ち込みについても「解明できないところが残った」と指摘、文書の「不自然な欠落が見られるのは遺憾」などとした。(倉重奈苗)
朝日新聞』2010年3月9日