記事:旧KGBスパイ?日本人になりすまし出入国30年

KGBスパイ?日本人になりすまし出入国30年

 ロシア対外情報局(SVR、旧KGB)機関員とみられるアジア系ロシア人の男が1960〜90年代にかけ、失跡した日本人になりすまして出入国を繰り返していたとして、警視庁は13日午後、この男を旅券法違反容疑などで東京地検書類送検する。

 同庁公安部幹部によると、男は、ロシア大使館員や自衛隊員、政党関係者らと頻繁に接触し、スパイ活動をしていたとみられるが、本名などは特定できなかったという。

 公安部幹部によると、男は、65年ごろに失跡した福島県内の男性(当時34歳)の戸籍を入手して男性の旅券を取得し、出入国を繰り返していた疑い。

 公安部は97年7月、既に出国していた男の東京都練馬区の自宅を同法違反容疑などで捜索し、氏名不詳のまま国際手配していた。

 その後、男がロシア・サンクトペテルブルクの日本総領事館で旅券を更新していたことが判明したが、昨年6月、一度も使われずに失効したため、公安部は今後の捜査の進展は見込めないと判断した。
(2008年8月13日13時16分 読売新聞)

成りすましスパイ事件、捜査終結へ 警視庁

 アジア系ロシア人の男が実在する日本人に成りすます「背乗(はいの)り」で30年以上もスパイ活動をしていた事件で、警視庁公安部は13日午後、他人名義のパスポートを不正取得し出入国したとして、平成9年に旅券法違反容疑などで国際手配していた氏名不詳の男を書類送検する。

 公安部の調べで、男が昨年6月、パスポートを更新せずに期限切れで失効していたことが判明。不正取得したパスポートで再入国する可能性がなくなったことなどから、書類送検する方針を固めた。背乗りから40年、手配から10年以上を経て、捜査は終結する見通しとなった。

 調べでは、男は昭和40年ごろ、福島県内から失跡した店員、黒羽一郎さん=当時(34)=になりすまし、41年ごろから東京都港区内の貿易会社に勤務。公刊資料や知識人から日本の政治、経済、軍事情報などを30年以上に渡り収集していたという。ロシアのSVR(対外情報局、旧KGB)の諜報(ちょうほう)員とみられる。黒羽さんは突然、失跡しており拉致された可能性もある。

 男は50年ごろ、黒羽さんの戸籍を使い日本人女性と結婚。平成7年2月、中国・北京に向けて出国し、9年2月に、この妻をモスクワ郊外の豪邸に招いたことが判明している。その後、妻は日本に帰国している。

 直接の容疑は、4年6月29日、在オーストリア日本大使館で、黒羽さん名義でパスポートの更新手続きを行い、このパスポートを使って2回にわたり日本に出入国した疑い。男は9年6月にサンクトペテルブルク総領事館でパスポートを再更新したが、昨年6月、更新手続きが取られないまま有効期限が切れた。再更新直後の9年7月に公安部は旅券法違反容疑などで逮捕状を取って国際手配したが、それ以降の足取りは分かっていない。

 男はロシア語、日本語のほかスペイン語が堪能だった。海外出張を繰り返しており、日本人の立場を利用して西欧諸国などでも情報収集を行っていた可能性が高い。黒羽さんと同年代で、生存していれば現在70〜80代。在日ロシア大使館の一等書記官が男の諜報(ちょうほう)活動をバックアップしていたとみられている。

 ■SVR(ロシア対外情報局) 旧ソ連の情報機関、国家保安委員会(KGB)の流れをくむロシアの情報機関の一つ。平成3(1991)年のソ連解体後、対外的な情報収集任務を引き継いだ。ライバル機関に軍参謀本部情報総局(GRU)がある。平成17年には、東芝の子会社元社員がSVR諜報員とみられる在日ロシア通商代表部員に軍事転用可能な機密情報を漏洩(ろうえい)した事件で、元社員と部員が背任容疑で書類送検されている。

産経新聞 2008.8.13 12:16