記事:公文書館強化 情報公開の徹底を忘れるな

社説:公文書館強化 情報公開の徹底を忘れるな

 

国の「歴史」の散逸を防ぐため、やっと踏み出した一歩である。福田康夫首相の肝いりで公文書の管理体制の見直しを検討していた政府の有識者会議(座長・尾崎護元大蔵次官)が1日、中間報告をまとめた。国立公文書館の権限強化や、文書作成から保存までの基準を明確にし、統一的な管理を可能とするよう制度の改革を求めた。

 公文書を管理・保存する司令塔となる組織の整備や、政策の決定過程の文書化など改革の方向性は理解できる。その半面、文書の作成基準や、情報公開ルールの徹底に目配りを欠くと、制度いじりに堕すおそれもある。公務員制度改革の一環と明確に位置づけ、議論を深めるべきである。

 政府が作る公文書の管理行政は「不在」に等しい状況だった。各府省が作る文書の保存期間は情報公開法施行令が定める最低基準(最長30年)ぐらいしか統一的な指標がない。保存を終えた文書の公文書館への移管も各府省の同意が必要なため、進んでいない。書式や編集方法もまちまちで、誤廃棄などのずさんな管理が放置された。

 中間報告では、独立行政法人である国立公文書館を改組し、文書管理を担当する機関の職員を将来的に数百人規模に拡充するよう求めた。公文書館は国の機関に戻して内閣府に統合する構想と、立法、司法分野の文書も受け入れる「特別の法人」とする2案を示した。文書の作成、管理、保存の基準を明確にし、各省で保存期間を終えた文書は原則として公文書館に移すよう求めた。

 文書の電子化も進む中、こうした実務の統率には相当数の専門家が必要だ。国立公文書館の定員42人は米国の2500人、英国580人などと比べ突出して少ない。人材養成に向け、財政的な配慮が必要だろう。

 ただ、あくまで国民本位の制度設計が条件となる。文書の作成基準を官僚任せにすれば、資料的に意味の無い書式に骨抜きされよう。第三者機関を設け、政策決定過程が分かる「生きた文書」が残せる基準を作ることが不可欠だ。

 さらに肝要なのは情報公開だ。公文書館に移された文書を極力公開する原則を確立しなければ国民に「史実」を伝える役割は果たせまい。この部分で中間報告は踏み込み不足だ。外交史料館など他組織との連携の問題も残る。10月の最終報告で明確な方向性を示してほしい。

 首相がこの改革にかねて意欲的な原点にはかつて訪米した際、前橋市の資料が米国立公文書館できちんと整理されていた驚きがあるという。国政の歩みを記す資料の散逸は国益を損なう、との問題意識は賛成だ。だが、こうした実態の背景には行政の証拠を残したくない政治家や官僚の思惑がある。改革の成否を決するのは、ここでも「官の壁」の打破である。

毎日新聞 2008年7月2日 0時01分