記事:情報公開 公正・迅速・審査見直しを

私の視点 行政書士 大串博行
情報公開 公正・迅速・審査見直しを

 国の機関に対する情報公開請求は決定に不満があれば不服申し立てができ、当否を情報公開審査会が審査する。しかし、実際に不服申し立てをした経験から、公正さに問題があり、時間も掛かりすぎると指摘したい。
 私が03年度に査証関係通達の開示を求めると、外務省から25通すべてが文書名を含めて不開示とされた。不服申し立てをして届いた審査会の答申書によれば、審議に2日かけ、審査会の委員による外務省からの意見聴取が一回あったことになっている。最初の会合は正味3時間で10の案件を審査した25の通達内容を検討するのも1件だけであり、文面を読んでいるだけでも時間が足りなくなるだろう。最終的に10の通達は開示になったが、内容は機密にする必要があるとは思えないものだった。
 審査会の委員は15人。3人1組で五つの部会に分かれて審査を担当する。委員は法曹関係者、官僚OB、法学研究者、公認会計士から選ばれる。その下に案件の事前整理や答申書の下書きなど実務作業を担って委員をサポートする事務局が内閣府に置かれる。つまり行政機関で事務局を仕切る形になる。
 委員の多くは他に職を持つ非常勤で、いきおい事務局に依存する部分が大きくならざるを得ない。論点の整理や答申案のたたき台の作成など、事務局のペースで進行する可能性は高い。審査が忙しくなるほど行政側に甘い傾向が強まるのではないか。案件が増えるなか、答申で行政側の不開示決定を支持した比率は年々高まり、177件の答申が出された01年度は全体の6割だったのが、634件の06年度には8割に達している。このような体制で本当に公正で慎重な審査ができるのだろうか。
 時間が掛かりすぎる点も問題だ。私の場合も最初の請求から開示文書閲覧までほぼ1年かかった。大臣への不服申し立て、審査会での審査、大臣の再決定という一連の手続きは行政不服審査法に基づく。この法律の趣旨は「簡易迅速な手続きによる国民の権利利益の救済」にある。しかし、総務省の統計によれば、不服申し立てから最終的な決定が出るまでに1年以上かかったケースが全体の4割に上る。このように長い時間がかかるようでは「簡易迅速な救済」という趣旨にふさわしくない。
 処理が長期化する原因は、案件の多さに比べて審査会の体制が追いつかないことにある。情報公開に関する不服申し立て案件は、審査会がすべての省庁、独立行政法人の諮問を一手に引き受ける。したがって、年間の審査権数は膨大である。たとえば06年度の場合、情報公開、個人情報保護を合わせて年間の諮問件数は728件に上る。多数が翌年に積み残される。
 情報公開制度の趣旨を実現するために地域ブロックごとの審査会の設置や委員の増員、民間人も含めた選任範囲の拡大など抜本的な見直しが必要である。


2008年5月21日 『朝日新聞』日刊