ヘンリー・キッシンジャー『キッシンジャー秘録1』

ヘンリー・キッシンジャーキッシンジャー秘録1、ワシントンの苦悩』小学館、1979年。
 キッシンジャー外交をリアルタイムで直接見ることのなかった世代である自分でも、同書を読むと彼がいかにバイタリティあふれる外交家であったかがわかる。亡命ユダヤ人からハーバード大学教授にのし上がった彼は、東部エスタブリッシュメント層から疎外された苦労人ニクソンといいコンビであった。キッシンジャーは、冷戦期の伝統的なアメリカ外交の失策を批判し、硬直した(と本人は信じていた)官僚組織と対立を繰り返しながらも、「連関」と「三角外交」からなるダイナミックな対外政策を展開していった。
 Hanhimakiが指摘するように、結局キッシンジャー外交は、キッシンジャーだけが為しえたものであり、彼は自身の外交スタイルを伝統として根付かせることはできなかった。その意味で大胆なアメリカ外交の伝統において徒花であったのかもしれない。しかし、古典外交に深い理解を持ち、歴史的視点を重視したキッシンジャーの外交家としての威名は、その功罪と共に今後も語り継がれるであろう。