記事:核搭載艦寄港:外務省に密約本文 元条約局長が証言

核搭載艦寄港:外務省に密約本文 元条約局長が証言

2009年7月11日 2時30分 更新:7月11日 4時24分
毎日新聞
 

外務省条約局長などを務めた元同省幹部が10日、毎日新聞の取材に対し、1960年の日米安保改定交渉の際に合意した核搭載艦船の日本寄港を認める密約本文が、外務省内に保管されていたことを明らかにした。寄港密約は60年1月6日に、当時の藤山愛一郎外相(岸信介内閣)とマッカーサー駐日大使が結んだもので、外務省の元担当幹部が密約管理の実態を詳細に証言したのは初めて。

 この幹部は密約については、米側で公開された公文書と同じものとしたうえで、英文で藤山、マッカーサー両氏の署名もあったと証言した。日本文も添付されていたという。

 63年4月4日に当時の大平正芳外相(池田勇人内閣)とライシャワー駐日大使が、米大使公邸で上記の密約本文を再確認し、大平外相が「持ち込みは核の搭載艦船の寄港・通過には適用されないことになる」と認めたことを示す日本側の会談記録も保管されていたという。

 さらに60年の日米安保改定交渉に外務省アメリカ局安全保障課長(当時)としてかかわった東郷文彦氏(後に外務事務次官、駐米大使)が密約の解釈や交渉経過などについて詳細にまとめた手書きの記録も残っていたとしている。

 その手書き記録は、当時の外務省の書式である2行書いては1行空ける方式で書かれ、青焼きコピーが繰り返されて見えにくくなっていたという。村田良平元外務事務次官の証言でわかった事務次官引き継ぎ用の日本語の文書も含まれている。

 これらの文書は外務省条約局(現国際法局)とアメリカ局(現北米局)で保管していた。

 この幹部は、北米局長、条約局長らの幹部はこれらの密約文書を把握していたと指摘。ただ、01年4月の情報公開法の施行に備えるため「当時の外務省幹部の指示で関連文書が破棄されたと聞いた」と証言している。【須藤孝】
 ◇外務省、打算と保身

 外務省条約局長を経験した元同省幹部が自ら確認した日米密約文書について詳細に証言した。外務事務次官経験者らが核搭載艦船の日本への寄港を認める密約について証言する一連の動きと無関係ではない。

 こうした動きの背景には、同省有力OBの冷徹な打算もあるとも言える。北朝鮮の2回目の核実験やオバマ米大統領の新しい核政策を受けて、発言しにくい現役外務官僚に代わって、「米国の核の傘」を強化するメッセージを発したいという思惑も透けて見える。

 それに加え、密約公開を掲げる民主党による政権交代の可能性が出てきていることから、先手を打ち密約をなし崩しに認めておこうという保身的側面もある。

 しかし、現役、OB一体となって身を切るような密約隠しの検証を続けなければ、国民から理解は得られないのではないか。

 ところが元外務事務次官の1人は「情報公開制度ができた時(01年4月)に、口頭了解など国と国の約束かどうか法的にはっきりしないものは整理した」と暗に破棄したことを認めた。

 独立間もない日本の国力を考えれば、寄港密約を結んだ当時の外交を一方的に非難できないかもしれない。しかし、冷戦が終わって約20年が経過しても密約隠しを続けることが、日米同盟の深奥できしみを生じさせているのも確かだ。

 日本を含めた北東アジアの核を巡る環境は緊張を高めており、日本は核政策について真剣に考える時に来ている。密約の証言はOBに任せ、政府・外務省の現役幹部が「密約はない」と言い続けるのは今後の日米関係にとって大きなマイナスだ。【須藤孝】

核密約」文書、かつては外務省で保管 国会対応要領も

2009年7月11日12時49分
朝日新聞
 

核兵器を積んだ米艦船の日本への寄港を、日米安保条約上必要とされる事前協議なしに認める日米の「核密約」について、密約の合意文書自体がかつて外務省内に保管されていたことが分かった。元外務省幹部が11日、朝日新聞の取材に明らかにした。01年ごろに当時の外務省幹部が密約関連文書の破棄を指示したのを受けて、合意文も失われた可能性が大きいという。

 核密約については、村田良平元外務事務次官が、日本語の次官用引き継ぎ資料の存在を証言していた。

 元幹部の説明では、保管されていたのは、米側で公開された公文書と同内容の英文文書。60年の安保条約改定交渉の際に「米軍機の日本飛来、米海軍艦艇の日本領海並びに港湾への進入に関する現行の手続きに影響を与えるものと解釈されない」と合意した秘密文書や、「米国の艦船及び航空機の日本国内の港、基地への立ち寄り」は「装備の内容は問わず」事前協議の対象から除くことを確認した文書が含まれていると見られる。

 74年にラロック元米海軍少将が「日本寄港の際、核武装を解かない」と証言した際や、81年にライシャワー元駐日米大使が密約の存在を証言した際に外務省内で極秘に行われた議論と、その結果まとめられた国会向けの対応要領なども保管されていたという。

 複数の元政府高官や元外務省幹部によると、文書はアメリカ局(現北米局)と条約局(現国際法局)に分散して保管され、限られた幹部だけが内容を把握していたという。

 密約問題に関し、河野太郎衆院外務委員長は11日、朝日新聞の取材に、密約はなかったとする従来の政府答弁の変更を政府に求める意向を明らかにした。河野氏は村田元次官らと面会した結果、密約はあったと判断。13日にも記者会見を開いて変更を求める。