田中森一『反転―闇社会の守護神と呼ばれて』

田中森一『反転――闇社会の守護神と呼ばれて』幻冬舎、2007年
反転―闇社会の守護神と呼ばれて

大阪高検の鬼検事であった田中は、検察の政治圧力に嫌気がさして辞職し、一転して闇社会の弁護士としてバブル全盛期の日本社会に暗躍、そして最後は塀の中に落ちた。本書は彼の波瀾万丈の半生記である。佐藤優国家の罠』もそうだが、塀の内側に落ちた専門家の自叙伝は魅力的だ。功上げ名を成した人物の自叙伝は、周囲の人間関係やその他のしがらみを気にする。一代で大企業を築き上げた人物は、あたかも全てが自分の力でのし上がったように書くことが多い。しかし彼らの自叙伝は、こうした要素とは無縁だ。敗者たる彼らは、自らの半生を自省し、そして自分を捨てた組織、社会をどこかさめた目で見ている。そして面白いことに、彼らはプロフェッショナルの目から冷徹に自身の敗因を分析しているのである。田中が見た大阪と東京の検察文化の違いや政治介入の有様、バブル時代の様相、彼が付き合った政治家やヤクザ達の月旦は、現代への教訓はもちろんのことながら、未だ歴史になりきれない昭和後期、1980年代という一時代の断面をよく捉えている。