畠山清行『秘録陸軍中野学校』

畠山清行(保阪正康編)『秘録陸軍中野学校新潮文庫、2003年(初版番町書房、1971年)513−700頁
秘録 陸軍中野学校 (新潮文庫)
畠山は代表作『日本の埋蔵金』三巻で知られるように、戦前から埋蔵金にまつわる多くの伝承や証言を整理した日本埋蔵金研究の泰斗ともいえる人物である。千三つやと呼ばれるような安易な埋蔵金探索を戒め、「土を掘るより資料を掘れ」という格言を残した反面、その多彩な人脈を活かして多くの人間にインタビューを行い、文書史料に残らない貴重な証言を掘り起こした点は特筆に値する。本書も旧陸軍中野学校の存命者のインタビューを中心に構成された、秘密戦史であり、その証言は畠山の筆致とも相まって物語としても面白いものに仕上がっている。畠山の著作は多くが面白く読める反面、共通して見られる欠点に、秘密保持のために時に名前や組織をボカしたり意図的に変更したりしている点、関係者の談話を基にしているために、どこまでが引用でありどこからが畠山の創作であるかの判別が難しい点があげられる(『日本の埋蔵金』にもこの傾向は強い。こちらは畠山の著作に依らざるを得ない発掘探索者の生の証言が多く盛り込まれているために、より深刻な問題といえるかもしれない)。埋宝、諜報というアングラ系のテーマ設定やルポタージュという性質からこれらはやむを得ないが、貴重な証言を引き出しながら近年まであまり実証的な歴史研究の側から注目されてこなかった一因でもあるだろう。しかし、近年の様々な史料の公開によって、畠山の多くの著作は見直されつつある。本書のように畠山の著作が続々と復刊されているのも、その現れといえよう。