Avner Greif, Institutions and the Path to the Modern Economy

Avner Greif, Institutions and the Path to the Modern Economy : Lessons from Medieval trade (Political Economy of Institutions and Decisions) Cambridge UP, 2006

Institutions and the Path to the Modern Economy : Lessons from Medieval trade (Political Economy of Institutions and Decisions)


 ゲーム理論を用いて中世経済史の説明を試みた研究。経済史家グライフの研究は、歴史の中において制度がいかに形成されたかを論じる「歴史的制度論」として知られる。本書は、中世の地中海において交易を行うジェノア人とマグレブ人の商慣習に着目し、歴史的記述に基づいた知見を商人・代理人関係の繰り返しゲームのモデルを用いて理論化している。
 グライフの研究は、経済学の世界はもちろんのこと政治学においても高く評価されているが、政治外交史を研究する立場として、歴史学政治学をいかに結合させるかという点からみて、こうした研究は実に興味深い。政治学の分析枠組から歴史を見てみたものは、どうしても史家の目から見ると実証があら過ぎる、二次文献しか使ってないといった批判がなされがちである(当然逆の立場からの批判もある)。実際5〜6年の期間で博士論文を書こうとする政治学専攻の大学院生が、既存理論の研究を十分に学んでから、さらに各国の公文書館への史料巡りを行うことはかなりリソース的に難しい注文のように思える。史家から見ても納得できる史料水準を用いて、政治学・国際関係学への「理論的」貢献をなし得る研究は歴史学と社会科学の両方のトレーニングを積み、相当熟練した研究者だけができる業なのかもしれない。