大河原良雄『オーラルヒストリー日米外交』

大河原良雄『オーラルヒストリー日米外交』ジャパンタイムズ、2006年。 


 戦後60年を経た日米関係は今、最良の時といわれている。しかしこの日米関係の「長い平和」を、現場から一貫して見続けてきた人物はそう多くはない。本書はその貴重な一人ともいえる元駐米大使・大河原良雄のオーラルヒストリーである。


 大河原の外交官としてのキャリアは、日本がパックス・アメリカーナの下、敗戦国から復活を遂げて経済大国の頂点に至る時代にちょうど重なる。しかし、大河原の証言が示すように、戦後日米関係は決して平坦な道程ではなかった。日米安保闘争の直後に成立して、大河原が外相秘書官を務めた池田政権は、対米関係をいかに修復するかに苦心した。続く佐藤政権は、長年の悲願であった沖縄返還を実現するがその直後、二度のニクソンショックに見舞われ、大河原は駐米公使として「ショックの軽減」に奔走する。そして、大河原が北米局長から駐米大使を務めた70年代から80年代は、衰退する米国と、その米国政府からの貿易赤字削減と防衛力増強の圧力に、世界第二位の経済大国となった日本が苦慮し続けた時代であった。


 大河原の語り口は、飾らずあくまで誠実である。インタビュワーの的確な質問もさることながら、自らが務め上げた職務についての質問に簡潔にかつ正確に答えている。自分の関知しないことについては、決して推論を交えたりせず、また自身の経験を、安易な「日本外交論」に一般化させることもない。それは日本外交を背負ってきたキャリア外交官としての自負と、自らの仕事を後世に忠実に残そうとする大河原の真摯な姿勢の現れであろう。


 そして、そのことが本書を単なる読み物以上に歴史資料としての価値を高めているといえる。自身の長年に渡る対米交渉の経験から、「アメリカ国民は基本的には強靱であり、逞しい復元力を発 揮する」と評価し、日米関係を「同盟なるが故に相手方が常に当方の立場を理解し同調することを、当然視してはならない」とする大河原の警句は、今後の日米関係を考える上で重要な示唆を含んでいるといえる。